丸山敬子さんインタビュー
自分が背中を見せることで他の人にも、自信を与えていきたい。「まつざわゼロ円ショップ」を主催する丸山敬子さんに話を伺いました。
普段、私たちの生活のなかでは学校、職場、家庭のどこに居ても、人との関係はつながっています。SNSがあるので直接会っていないときにも、他の誰かの存在を感じて生きているのです。
生活が便利になった反面、無意識のうちに目の前の現実を生きている気持ちが薄らいでいる、そんな気がしました。
誰かと会うとき、電車のなか、大切なひとと過ごすシーンで無意識にLINEやFBのメッセンジャーの返事が来ていないかを考えていないだろうか。僕はガッツリ考えてしまっています。
友達と話している最中も、気付けばお互いの片手にはスマホが握りしめられていた。目の前で会話をしているのに。
大学生の一日にスマホを利用する平均時間は、163・6分です。
(参考:全国大学生活協同組合連合会『第50回学生生活実態調査の概要報告』)
約2時間半はスマホの画面とにらめっこしていることになります。
1週間、1ヶ月、1年と時間を積み重ねていけば更に大きな時間に。
その時間を読書や趣味のための時間に使えたかもしれません。
もちろん、SNSがもたらしてくれた便利さや幸せもあります。けれどだからこそ、これからはもっと目の前の事を感じながら生きることが大事になると考えています。
50年後くらいになって、「時間があったのに無駄に過ごしたなぁ」と思いたくないし、もっと目の前の現実で起きることを大事にして生きていきたいのです。
今回の「まつざわゼロ円ショップ」を主催している丸山さんのお話のなかにも、もしかしたら今回の問題を考えるヒントがあるのではないでしょうか?
ゼロ円ショップとの出会い
ーー丸山さんはどのようにして、ゼロ円ショップのことを知ったのでしょうか?
丸山さん:私は両親からの虐待や性被害の影響で、小学生の頃にパーソナリティ障害を発症しました。
パーソナリティ障害とは、大多数の人とは違う反応や行動をすることで本人が苦しんでいたり、周りが困っているケースに診断される精神疾患です。
学生のころには、クラスメイトの前で自分の髪の毛を抜いてしまうこともありました。
それから社会人になってからも、家や病院のなかにしか居場所がなかった。自分で住む場所や身を置く環境も選べず、ずっと誰かに管理されている気持ちだったのです。
そんなときに知人に東京都の国立市でゼロ円ショップというのをやっているよ、と教えてもらい、実際に行ってみました。このとき「くにたち0円ショップ」に出会ったのです。毎月第2日曜日に行なわれています。
ゼロ円ショップでモノを受け渡しするときに、生まれる会話が心地よかった。なによりも、「ここにいていいんだ」と温かい居場所のように感じました。
丸山さんが主催するまつざわゼロ円ショップの「まつざわ」は近くにある精神科医療が専門の松沢病院が由来になっている。
周りのひとが行動するために、わたしは架け橋になりたい
ーー自分の足を動かすことで、自分の居場所を見つけたのですね。しかし、自分から行動しなきゃいけないとは分かってはいるけど、中々踏み出せないと思います。丸山さんはなぜ、まつざわゼロ円ショップを主催するようになったのでしょうか?
丸山さん:実は、私がいまこうして皆さんと話しているのも社会に出る一歩なんです。病院や家の外から出て、自分の足を運んで話すのは最近のことですよ。40代になってからは、やりたいことをやろうと考えました。しかし前に踏み出せず、迷っているところに「自立とは依存先を増やすこと」という言葉に出会います。1人で出来ないことをひとに頼ることも大切だよと教えてもらいました。
障害を持っていることで、差別を受けることがありました。私も含めて、いまを生きているひとは人権感覚が薄くなってきていると思うのです。
えらい人や権力を持っているひとの言うことが、全てまっとうな訳ではないですから。弱い立場のひとでも、声をあげる権利を持っているんです。「障害を持っているから」と言われるのは、つらいことです。
私みたいなひとが自分の居場所を作ることが出来るのだから、ほかの人もゼロ円ショップを知ってもらうことで、「居場所を作るのって簡単なことなんだね」と知ってもらいたいです。居場所がふえて、その中で1人でも気が合う人と出会えたり、居心地のよい時間が生まれるきっかけになればと、願っています。
まつざわゼロ円ショップの風景は以前の記事に載っているので、初めて聞いた方は見てみてください。
ーー丸山さん、ありがとうございました。最後に一言だけお願いします。
丸山さん:自助グループってご存知ですか? 困難や問題、悩みなどを抱えた人が同様な問題を持ったひと同士で話し合うグループのことです。アメニティカフェのように病院や家以外で気のおける人と話すことは、大切です。私は、気軽に話せる今この瞬間のような空間が大好きですよ。この空間や時間は、お金で買うことはできないんですから。
取材を終えて
丸山さんにお話しを伺っているときに、「闘っている」という印象が強かったです。差別や社会はあるいは自分に、とことん向き合って生きています。そして自分から足を動かして、今いる自分の環境を変える大事さも学ばせていただきました。
最初に投げかけた問題に話を戻しますが、地域のカフェやコミュニティには悩みを聞いてくれたり、相談に乗ってくれる方は沢山います。その方たちに思い切って頼ってみるのも、僕はいいと思うのです。
たまにはスマホはバックにしまって、街のカフェでの偶然の出会いに任せ、巡り合った人との会話を思いっきり楽しむ日を作るのはどうだろうか?